自動車からAIサーバーまで──新たな電力効率を実現するX-FABのGaN-on-Si技術とは
半導体の世界では、今「GaN-on-Si(ガリウムナイトライド・オン・シリコン)」という技術が大きな注目を集めています。2025年9月、ヨーロッパを拠点とするX-FAB Silicon Foundries SEが、dModeデバイス向けGaN-on-Siファウンドリサービスの提供を正式にスタートしました。これにより、電力変換の効率を飛躍的に高める可能性を持つGaN技術が、より多くの企業にとって身近なものとなります。
今回とくに注目すべきなのは、地政学的に安定したドイツで、GaN-on-Siの製造サービスが純粋なファウンドリとして提供されるようになったという点です。X-FABは、自社で製品を設計せず、製造だけを専門に行う「ピュアプレイファウンドリ」として、fabless企業に対してGaN-on-Siプロセスをオープンに提供しているのが大きな特徴です。
X-FABのGaN-on-Si技術は、ドイツ・ドレスデンにある最新鋭の8インチ工場で提供され、ここでは自動車、データセンター、再生可能エネルギー、医療などの分野に向けた製造設備が整っています。しかも、350nm CMOS技術と共有ツールを使える柔軟な製造環境が整っているため、プロトタイプから量産までの道のりがスムーズに進みます。
X-FABはすでに、100Vから650Vまで対応可能なdMode HEMTトランジスタを含むXG035 dMode技術プラットフォームを公開しており、今後は複数企業によるMPW(Multi-Project Wafer)サービスも提供予定です。これにより、小規模企業やスタートアップもコストを抑えながら試作品を作ることができ、新規参入のハードルがぐっと下がります。
AIやEVなどの分野では、今後ますます高性能で高効率な電力制御が求められます。X-FABのGaN-on-Si技術は、そのニーズに応える強力なソリューションとなる可能性が高く、特に電力効率を重視する産業界にとっては見逃せない展開です。
重要キーワード3つの解説:
- GaN-on-Si(ガリウムナイトライド・オン・シリコン)
従来のシリコンよりも高速で電力効率が高く、より小型のチップ設計が可能。EVやAI向けの電源制御に最適。 - dMode(ディプレーションモード)HEMT
電源オフ状態でも電流が流れる特性を持ち、電力制御において高速かつ高効率なスイッチングを実現するトランジスタ。 - MPW(Multi-Project Wafer)サービス
複数の企業が1枚のウエハを共有しながら試作できる仕組み。コスト削減や開発スピードの向上に大きく貢献。
今後の展開とインパクト:
X-FABの取り組みによって、これまでコストや技術の壁でGaN開発をためらっていた中小企業にも参入のチャンスが広がります。EV、データセンター、再エネ分野での電力効率向上が期待されるほか、AI開発に欠かせないGPU向け電源の小型化と効率化にもつながる可能性があります。今後の量産フェーズでは、世界の電力インフラそのものに影響を与える存在になるかもしれません。

