- USMCAで導入された自動車原産地規則は、部品や素材のアメリカ国内生産を促進しました。
- 自動車価格は平均33ドル上昇、生産台数はわずかに減少しました。
- 技術の進化により、一部のルールは現状と合わなくなってきており、見直しが必要です。
部品産業の成長と引き換えに、生産コスト増加やモデル削減も — 将来的な再設計の可能性も
2020年7月に発効したUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)では、自動車原産地規則が新たに定められました。これは、自動車やその部品が「どの国で、どの程度の割合で作られているか」に基づいて、関税免除の可否を決めるルールです。
この自動車原産地規則には、以下の3つの主要な要件があります:
- 地域価値含有率(RVC):例えば、完成車では75%以上がUSMCA加盟国で作られている必要があります。
- 労働価値含有率(LVC):一定の割合(40〜45%)が、時給16ドル以上の労働者によって生産されたものであることが条件です。
- 鉄鋼・アルミの調達要件:自動車メーカーは、70%以上の鉄鋼・アルミをUSMCA域内から調達する必要があります。
これらのルールにより、アメリカ国内での自動車部品や鉄鋼産業の生産や投資が増加しました。たとえば、自動車部品の製造において5,387人の新たな雇用が生まれ、関連する賃金も3億3,580万ドル増加しました。
しかしその一方で、自動車の生産台数は約1万5,000台減少し、車両価格は平均33ドル上昇。さらに、特定のモデルをUSMCA域内で販売しなくなるメーカーも現れ、消費者の選択肢が減る懸念もあります。
米国内での部品生産は好調で、2019年の3118億ドルから2024年には3490億ドルに成長。これは、自動車原産地規則による需要の変化が影響していると考えられています。
一方で、カナダやメキシコなど他国でのアメリカ製自動車のシェアは低下傾向にあり、特にメキシコでは中国製車両のシェアが急上昇しています。
今後の展開・影響の可能性
この報告は5年に1度更新されており、次回は2027年に予定されています。電気自動車や水素車、バッテリーのリサイクル技術など、新しい技術の登場により、現在のルールが現実に合わなくなるケースも出てきました。例えば現在の自動車原産地規則が一部の最新技術に対応できていないことが指摘されています。具体的には以下のようなケースです:
- 電動ピックアップトラックの分類問題
電動タイプのピックアップトラックは、同じ見た目でも内燃機関車とは別の原産地ルールが適用されるため、メーカーにとって手続きが複雑で、ルールが産業実態とズレています。
- 一体成形されたアルミ車体の扱い
近年増えている鋳造アルミ(ギガキャスト)で作られた車体には、スタンプ製ボディに適用されている柔軟な扱いが認められていません。そのため、ルールの硬直性が技術革新の妨げになる懸念があります。
- eアクスル(電動駆動ユニット)のルール不一致
eアクスルはEVに不可欠な部品ですが、内燃エンジンの代替品であるにも関わらず、適用されるRVC基準が一部異なるため、メーカーの混乱を招いています。
こうした事例は、将来的に自動車原産地規則の見直しや再設計が必要になることを示唆しています。
今後は、これらの技術革新に対応できるように自動車原産地規則を見直す動きが出てくる可能性があります。アメリカが自動車産業で競争力を保つには、柔軟で現実的なルールの運用が求められます。
重要キーワード3つの解説
- 自動車原産地規則
自動車や部品が、どの国でどれだけ作られたかを基に、関税免除の対象となるかを決めるUSMCAのルール。 - 地域価値含有率(RVC)
車両や部品の中で、USMCA加盟国で生産された部分の割合。75%が一般的な基準。 - 労働価値含有率(LVC)
製品の一定割合が、時給16ドル以上の労働者によって生産されたことを求める基準で、アメリカなど高賃金国の生産を促進する狙いがあります。