安全性の壁を越えられるか――米国規制当局と欧州メーカーの間で揺れる次世代冷媒の行方
米国環境保護庁(EPA)は、自動車の空調システムに使用される冷媒を管理するSNAPプログラムのもとで、燃焼性を持つ冷媒の使用を厳しく制限しています。そのため、低GWP(地球温暖化係数)で環境性能に優れるプロパン(R290)であっても、現在は「不適格」とされ、米国市場では使用が違法となっています。EPAは安全性を重視し、とりわけ車室内に冷媒が漏れるリスクを懸念しています。
一方で、自動車業界の動きは異なります。ドイツのZFは2021年からR290を使った熱マネジメントモジュールを開発しており、すでに第2世代が完成し第3世代も準備中です。同じくNidec AMECもプロパンを採用したシステムを公開し、Mahleは現在のR1234yf向け製品を将来的にR290へ切り替え可能な設計にしています。さらに、FordとDENSOは共同研究を進め、Fordの技術者はR290を「EV向けに最良のグローバル選択肢」と語っています。
こうした動きの背景には、コスト競争力とPFAS規制があります。現在主流のHFO-1234yfは低GWPですがPFASの一種であり、欧州では将来的に規制対象となる可能性があります。対照的にR290はPFASに含まれず、安価で効率も高いため、多くのサプライヤーが「次の本命」と見ています。ただし、可燃性の課題を克服するためには、新しい安全設計が不可欠です。
重要キーワード3つの解説
- SNAPプログラム:EPAが冷媒の使用可否を決める制度。安全性や環境影響を総合評価する。
- R290(プロパン):地球温暖化係数がほぼゼロに近い天然冷媒。ただし可燃性が高い。
- PFAS規制:欧州で強化が進む化学物質規制。現行主流のHFO-1234yfは対象となる可能性がある。