人型ロボットから産業用マシンまで、次世代「フィジカルAI」を支える計算基盤
2025年8月25日、NVIDIAは次世代ロボット向けコンピュータJetson Thorを正式に提供開始しました。これはロボットの「頭脳」として機能する小型コンピュータで、従来機種Jetson Orinの7.5倍のAI演算性能、3.1倍のCPU性能、2倍のメモリを備えています。
なぜ重要か?
従来、ロボットが高度な判断を行うにはクラウド上のサーバーで処理し、その結果を受け取る必要がありました。しかし通信の遅延や安全面のリスクから、現場での即時対応が難しいという課題がありました。Jetson Thorはサーバー並みの計算能力をローカルに搭載できるため、ロボット自身が現場で即時に判断し行動できるようになります。これが「リアルタイム推論」の進化です。
実際の応用例
すでにAgility Roboticsは物流ロボットDigitの次世代機にJetson Thorを採用予定で、倉庫での荷積みや仕分け作業の自律化を加速させます。またBoston DynamicsのAtlasもThorを搭載し、サーバー級のAI処理を現場でこなすことが可能になります。これにより、従来よりも複雑で予測不能な環境でもスムーズに作業できるロボットが登場する見込みです。
社会的インパクト
人型ロボットに限らず、医療支援ロボット、農業用スマート機械、配送ロボット、産業用マニピュレータといった幅広い分野で活用が期待されています。特に日本では、労働力不足や高齢化といった課題が深刻化しているため、現場で判断・行動できるロボットは産業界に大きな助けとなるでしょう。
さらに、スタンフォード大学やカーネギーメロン大学といった研究機関でも採用が始まっており、災害救助や医療トリアージなど社会的に重要な領域での実証が進められています。これにより、日本の研究機関や企業が国際的なプロジェクトに参加する機会も増えると考えられます。
総じて、Jetson Thorはロボットに「考える力」を与えるプラットフォームであり、産業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を後押しする存在となるでしょう。
重要キーワード3つの解説
- Jetson Thor:NVIDIAの最新ロボット向けコンピュータ。リアルタイム推論を可能にし、人型ロボットや産業用ロボットの「頭脳」として機能する。
- Physical AI(フィジカルAI):実世界で動くロボットや機械にAIを組み込み、センサー情報をもとに即時に判断・行動する仕組み。
- リアルタイム推論:複数のセンサーから入るデータを遅延なく処理し、現場で即座に意思決定を行うAIの能力。自動運転や医療ロボットなどに必須。

