効率・密度・持続可能性を一気に飛躍させる次世代の電力インフラが始動
2025年7月29日、半導体メーカーのonsemi(オンセミ)が、NVIDIAとの協力を発表しました。この協力の目的は、次世代AIデータセンター向けに800Vの直流(VDC)電力システムを本格的に導入すること。今までの電力配電方式では追いつかないほどAIの処理能力が求められるなかで、より効率的で、電力密度が高く、しかも環境にも優しい新しい仕組みが必要とされていました。
従来の54Vの配電システムでは、電力を供給するために大量の銅やスペースが必要でした。しかし、800VDCでは、高電圧によって電流を減らすことができ、結果として配線を細くできるため、銅の使用量も抑えられます。それにより、コスト削減や環境負荷の軽減が期待されています。
onsemiは、長年培ってきたシリコンとシリコンカーバイド(SiC)技術を活かして、800VDC対応のパワーコンポーネントを幅広く提供。AC/DC変換からプロセッサへの電圧制御まで、すべての電力段階を効率よくつなげることができるという点で、onsemiは他社にはない強みを持っています。
特に注目すべきは、これが単なる技術導入ではなく、将来のAIデータセンターの基本構造を塗り替える変革であるということ。NVIDIAは2027年から1MW(メガワット)以上の処理能力を持つ「Kyberラック」の導入を予定しており、今回の800VDCアーキテクチャはそれに合わせて設計されています。
つまり、AIがさらに進化する未来に向けて、電力インフラの“土台”を根本から作り直す動きが始まったということです。
重要キーワード3つの解説
- 800VDC(800ボルト直流)
これは、従来の54Vの電力供給方式に代わる新しい高電圧配電方式です。高い電圧で供給することで、同じ電力をより少ない電流で送ることができ、電力損失を減らしつつ、配線のコストも大幅に削減できます。今後、AI用の大規模データセンターではこの方式が主流になる可能性があります。 - シリコンカーバイド(SiC)
SiCは、従来のシリコンよりも高温・高電圧に強く、スイッチング性能も高いため、電力変換において非常に効率的です。onsemiはこの分野で先進的な技術を持っており、800VDCシステムには欠かせない存在です。 - Kyberラック
これはNVIDIAが2027年から導入する予定の超高性能AIサーバーラックで、1ラックあたり1メガワット以上の処理能力を想定しています。従来の電力配線では対応できない規模のため、800VDCの導入が不可欠になります。
今後の展開とインパクト
この動きは、単なる電力供給方式の変更にとどまりません。AI時代の電力設計そのものを変える可能性を秘めています。これにより、1ラックあたりの処理能力を飛躍的に高めながら、電力ロスや冷却コストを抑えることが可能になります。結果として、大規模AI処理のコストは最大30%削減されるとも言われています。
さらに、800VDCの普及は、データセンターだけでなく、電気自動車や再生可能エネルギーインフラとの技術融合も加速させる可能性があります。よりスマートで、持続可能な未来に向けたインフラの基礎作りが、今まさに始まっているのです。