EV時代を支える“見えない主役”――車載向け電流センサが今、最注目される理由

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EV時代の“影の主役”――車載電流センサが熱い理由

世界的に電気自動車(EV)の普及が進むなか、注目を集めているのはバッテリーモーター、あるいはSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった新しい半導体材料だ。しかし、こうした先端部品の性能を最大限に引き出すためには、ある重要な存在が欠かせない。それが電流センサである。

電流センサの役割はシンプルだ。どれだけの電気が流れているかを正確に測定し、システムに伝えることである。だが、その働きは決して単純ではない。EVのバッテリー残量表示が正確かどうか、モーターが効率よく駆動できるかどうか、さらには急速充電時の過電流から部品を守れるかどうか──そのすべては電流センサが正しく働いているかにかかっている。いわばEVの「血流」を診断する医師のような存在だ。

ここ1〜2年、この市場が急速に盛り上がっている背景には二つの大きな要因がある。第一に、世界的なEV販売の急増。第二に、SiCやGaNの普及である。これらの半導体は従来よりも桁違いに高速で効率よく動作するが、その分、制御のためには1MHz級の帯域100ナノ秒単位の応答速度が必要になる。こうした要求に応えるべく、各社が次々と新製品を投入している。

米テキサス・インスツルメンツ(TI)は、自動車向けホール効果型電流センサを相次いで発表。最新の「TMCS1133-Q1」はわずか50ナノ秒で応答し、1MHzの帯域幅を誇る。高電圧システムに対応した「TMCS1123」も投入し、急速充電やモーター制御の厳しい要求に応えている。

アレグロ・マイクロシステムズはCrocusの技術を生かしてTMRセンサをリリース。応答速度は300ナノ秒未満で、GaNトランジスタの高速制御にも対応可能だ。スイスのLEMはSiCモジュールに直接組み込める小型センサ「Nano」や、シャント+ホールのハイブリッド型を発表。独インフィニオンとSwobodaはインバータモジュールにセンサを組み込み、省スペースと高精度を両立した。日本の旭化成エレクトロニクス(AKM)は100ナノ秒応答のホールセンサを量産し、さらに研究機関と共同で「センサ内蔵パワーモジュール」を実証した。

このように各社が競い合うのは、電流センサが今やEVの性能・安全性・コストを左右する核心部品だからだ。ノイズや高温に耐える技術、大量生産でのコスト競争力、長期安定性――課題は多いが、それを克服した企業こそが次世代市場をリードする。

EVの航続距離が伸び、充電が速くなり、安全性が高まる。その裏には必ず、進化を続ける電流センサの存在がある。表舞台に立つことは少ないが、確かに自動車産業の未来を握る“熱い市場”がここにあるのだ。


重要キーワードと解説

ホール効果センサ
磁場を利用して電流を測定する方式。コストと信頼性に優れるため最も広く使われている。TIやAKMの最新製品は応答速度を大幅に改善。

TMR(トンネル磁気抵抗)センサ
ホールより高感度・低ノイズで、高速応答が可能。アレグロやLEMが製品化を進めている。

SiC/GaN
ワイドバンドギャップ半導体。従来のIGBTより高速かつ高効率。これらの普及が高速・高精度センサ需要を一気に押し上げている。

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