実証実験で示された新世代バッテリーの可能性と、自動車産業へのインパクト
2025年8月末、Mercedes-BenzはEQSの試験車両を用い、ドイツのシュトゥットガルトからスウェーデンのマルメまで1,205kmを無充電で走破しました。搭載されていたのはリチウム金属を用いた固体電池であり、この走行距離は同社のコンセプトカーVision EQXXが持つ記録を上回るものです。しかも、到着時にはまだ137kmの走行可能距離が残っていたという点も注目すべき成果です。
この実験は、単なるラボテストにとどまらず、実際の高速道路や交通状況を踏まえた現実的な条件で行われました。走行ルートはドイツからデンマークを経由してスウェーデンへと続くA7やE20の高速道路で、地形や交通、外気温、冷暖房による電力消費まで考慮した「Electric Intelligence」による最適経路が用いられました。
技術的には、アメリカのFactorial Energy製セルを採用し、同社独自のFEST®(Factorial Electrolyte System Technology)を導入。さらに、充放電による体積変化に対応するための空圧式アクチュエーターが組み込まれ、バッテリーの耐久性と安定性を確保しています。その結果、従来のEQS用バッテリーとほぼ同じサイズと重量ながらエネルギー容量は25%向上しました。冷却についても効率的な自然気流を活用して軽量化と効率化を実現しています。
Mercedes-Benzの技術責任者であるMarkus Schäfer氏は、この成果を「固体電池がラボだけでなく実際の道路でも十分に機能することを示したゲームチェンジャー」と強調しました。同社は2030年までにこの技術を量産車に導入することを目指しており、今回の走行はその大きな一歩といえます。
重要キーワードの解説
- 固体電池(Solid-State Battery):液体電解質ではなく固体を用いた次世代電池。高エネルギー密度と安全性が特徴。
- FEST®技術:Factorial Energyが開発した固体電解質システム。安定性と高出力を両立させる仕組み。
- 空圧式アクチュエーター:充放電に伴う電池セルの膨張・収縮を吸収し、性能を維持するための装置。
- Electric Intelligence:ルート選択時に地形や温度、交通状況まで考慮して最適化するMercedes-Benzのシステム。