世界と中国の差が広がる電気自動車の価格。その裏には、半導体不足や電池材料の価格変動、そして地政学リスクが潜んでいる。
電気自動車(EV)の普及が加速すると言われながら、欧米では価格の高さが依然として大きな障壁になっています。その背景には、世界的なサプライチェーンの制約と原材料コストの高騰があります。
まず、半導体不足が深刻でした。EVは数千個のマイクロチップを必要としますが、パンデミック時の供給不足により生産は滞り、結果として部品コストが上昇しました。メーカーは限られたチップを利益率の高いモデルに優先的に回したため、EV価格はさらに押し上げられました。
次に、バッテリーに必要なリチウムやコバルト、ニッケルといった鉱物の価格です。2020年には1台あたり約3,400ドルだった原材料費が、2022年には8,200ドルを超えるまで高騰しました。リチウム価格は2017年比で5倍近くに跳ね上がったこともあり、バッテリー価格が直接的に車両価格へと転嫁されました。近年はやや落ち着きを見せているものの、過去の急騰がすでに車両価格に織り込まれており、値下げには時間がかかります。
さらに、地政学リスクも価格を押し上げています。米中間の貿易摩擦による関税や、欧州が検討している中国製EVへの追加関税など、政治的な動きは部品や完成車を一層高くしています。加えて、物流の混乱や戦争による輸送費の上昇も無視できません。
一方で、中国は事情が異なります。中国はEVサプライチェーンを国内でほぼ完結できる体制を持ち、バッテリーの大量生産によってコストを3割近く引き下げています。激しい競争が価格をさらに押し下げ、同等の走行距離を誇るEVを欧米の半額近い価格で提供できているのです。例えば2025年現在、欧米では平均5万5千ドル以上するSUV型EVが主流ですが、中国では3万5千ドル以下で同等の性能を持つ車が買えます。
今後、欧米メーカーも鉱山開発やバッテリー工場への投資を進めていますが、コストが下がるまでには時間がかかるでしょう。したがって、供給網が安定し、原材料の多角化が進むまでは、EVの価格は高止まりする可能性が高いと考えられます。その間に、中国製EVがさらに存在感を強め、世界市場の主導権を握るシナリオも見えてきます。
重要キーワード3つの解説
- 半導体不足:EVの「頭脳」となるチップが足りず、生産遅延や価格上昇を招いた。
- バッテリー鉱物価格:リチウムやコバルトの急騰により、EV1台あたり数千ドルのコスト増となった。
- 中国のサプライチェーン:原材料から完成車まで一貫して国内で賄える体制により、大幅なコスト削減を実現している。