欧米の自動車メーカーはなぜEVを利益を出して売れないのか。その背景には、賃金上昇や製造効率の差がある。
EVの価格が下がらないもうひとつの理由は、労働コストと製造コストの高さです。特にアメリカやヨーロッパでは、自動車産業が歴史的に高い人件費を抱えています。2023~2024年の新しい労働組合契約では大幅な賃上げが実現し、フォードは1台あたり約900ドルの追加コストになると試算しました。もともと米国のビッグ3は非組合系メーカーに比べて労働コストが約5割高く、欧州でも高水準の賃金や福利厚生が車両価格に反映されています。こうした要因は、EV価格の引き下げ余地を狭めています。
さらに問題なのは、EV生産の移行期に伴う非効率さです。従来のガソリン車工場を改装したり、新しいバッテリー工場を建設したりと、巨額の投資が必要になります。その上、多くのメーカーはガソリン車とEVを並行して製造しているため、コストが二重にかかります。実際にフォードのEV部門は2023年第3四半期に1台あたり3万6千ドルの赤字を出したとされており、規模の経済が働かない現状を物語っています。
コスト上昇の要因は人件費だけではありません。欧州では工場を動かす電気代が高く、特にエネルギーを大量に消費するバッテリー製造に負担がかかります。さらに厳格な環境規制や労働安全基準も重要な要素ですが、結果的にコストを押し上げています。
これに対して、中国やアジアでは状況が異なります。比較的低い賃金に加え、大規模で熟練した労働力があり、さらに自動化が進んでいます。BYDやNioといった中国メーカーは、EV専用に設計された最新工場を持ち、政府の支援もあって効率的な生産が可能です。そのため1台あたりの製造コストを大幅に抑えられるのです。
こうした違いにより、西側メーカーはEVを「高級モデル」から投入せざるを得ません。価格に余裕のある上位車種でコストを吸収しつつ、生産規模を拡大して効率化を進めようとしているのです。とはいえ、規模の経済が働くまでには時間がかかるため、当面は欧米製EVの価格が高止まりする公算が大きいといえるでしょう。
重要キーワード3つの解説
- 労働コスト上昇:米国の新労使協定で1台あたり900ドル増、欧州も高賃金でコスト増。
- 二重生産の非効率:ガソリン車とEVの並行生産で投資と維持費がかさみ、赤字を招いている。
- 中国の自動化と新工場:最新設備と低コスト環境で効率的にEVを量産できる強み。