IRA対応と中国依存脱却、EV市場の主導権争いに向けた布石
世界の自動車産業がEVシフトを加速させる中、電池の心臓部ともいえる「正極材」をめぐる競争が一層激しくなっています。正極材はバッテリーの性能やコストを左右する重要な素材であり、安定調達できるかどうかが各社のEV戦略の成否を分けます。そんな中、韓国のLG化学とトヨタグループが新たな提携を発表しました。LG化学は韓国・亀尾にある正極材工場の株式25%を豊田通商に譲渡し、豊田通商は第2位の株主となりました。これで株主構成はLG化学が51%、豊田通商が25%、中国の華友コバルトが24%となり、中国資本の比率が引き下げられています。
ここでポイントとなるのが米国のインフレ抑制法(IRA)です。IRAはEV普及を後押しするために税制優遇を設けていますが、中国など特定の国が25%以上関与する企業は対象外とされます。つまり、中国比率を下げた今回の動きは、北米市場での税制メリットを確保するために不可欠だったのです。IRA対応を進めることは、EV市場の成長が最も期待される北米でシェアを伸ばすうえで避けて通れない条件といえます。
豊田通商はトヨタグループの商社として原材料の調達を担う存在であり、今回の出資によって北米での正極材供給体制が強化されます。トヨタグループはハイブリッド車で優位に立ってきました。安定的に電池材料を確保することはEVでも優位に立つための必須条件です。LG化学にとっても、トヨタという巨大な需要先をさらに強く取り込むことは、グローバル市場での地位を固めるうえで大きな意味を持ちます。
LG化学の亀尾工場は年6万6000トンの生産能力を誇り、従来より効率的な「LGPFプロセス」と呼ばれる技術でコストと性能を両立させています。すでにGMやトヨタ・パナソニックの合弁会社などと大型契約を結んでおり、2026年には米テネシー州の新工場も稼働予定です。つまりLG化学は韓国・米国・中国に生産拠点を構え、顧客基盤も拡大する「グローバルプレイヤー」としての存在感を一段と高めているのです。
今回の提携は、単なる株式の移動ではなく、日韓の有力企業が手を組み、中国依存を減らしながら北米市場での優位性を高めようとする動きの一環といえます。EVシフトを背景にバッテリー産業の主導権争いは続きますが、LG化学とトヨタグループの協力は、その勢力図に影響を与える可能性が高いでしょう。両社にとって今回の決断は「攻め」であると同時に、将来の不確実性に備える「守り」でもあるのです。
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