BMWは2025年8月、オーストリアのシュタイア工場にて「Gen6」電動ドライブシステムの量産を正式に開始。これはBMWのEV専用プラットフォーム「Neue Klasse(ノイエ・クラッセ)」向けの中核技術であり、今後の電動モビリティの基盤となる。革新的な800ボルトアーキテクチャとシリコンカーバイド(SiC)半導体を導入し、エネルギー効率・充電性能・駆動性能を全方位で大幅に強化している。
主要技術ポイントと構成要素
800VアーキテクチャとSiCインバーター
- 高電圧システムにより充電速度が最大30%高速化。
- SiC(シリコンカーバイド)半導体を使用した高効率インバーターをモーターに完全統合。
- 電力損失はGen5比で40%減少、コスト20%減、重量10%軽量化を達成。
- AC/DC変換は車載インバーターが担い、Steyr工場のクリーンルームで製造。
電動モーター:EESM + ASMのハイブリッド構成
- 主力は励磁型同期モーター(EESM)で、永久磁石を使わず電磁石で磁界を生成。
- 高速域でも安定した出力を維持し、効率に優れる。
- フロント駆動モデルには非同期モーター(ASM)を採用予定。コンパクトかつ低コスト。
- モーターは2段ヘリカルギアを内蔵し、静音性と伝達効率を強化。
新型バッテリー:800V対応・円筒型セル
- 「BMW Energy Master」と呼ばれる高電圧バッテリーの中枢制御ユニットを自社開発・内製化。
- 新バッテリーは円筒型セル(cell-to-pack)を採用し、20%高いエネルギー密度と構造部材としての一体化(pack-to-open-body)も実現。
- 双方向充電(V2G/V2H)にも標準対応。
熱マネジメント
- Steyr工場が全車種向けに熱マネジメント技術を開発。
- 電動モーターやパワーエレクトロニクス、バッテリーの加熱・冷却制御を統合。
- 航続距離、充電時間、加速性能、居住快適性すべてに影響を与える重要要素。
生産体制とモジュール戦略
モジュラー設計による柔軟な生産とスケーラビリティ
- Gen6のドライブユニット(モーター、インバーター、ギアボックス、ハウジング)はすべてモジュラー方式で設計。
- シュタイア工場では2本の新しい生産ラインで部品の組立てを実施。年60万基の生産能力。
- モジュール化によりコスト削減・在庫効率化・多車種対応を両立。
BMW Landshut工場の役割
- Energy Master(中央制御ユニット)とアルミハウジングを製造。
- 独自の「Injector Casting」技術で軽量・高機能なハウジングを一体成形。
- 清浄度が高いクリーン環境下で高精度組立てと100%最終検査を実施。
グローバル生産拠点(ローカル・フォー・ローカル)
- Gen6バッテリーとパワートレインの生産は、欧州・中国・北米・メキシコに配置された新拠点で並行展開。
- 地政学リスクに強く、雇用創出と地域経済強化にも貢献。
成果と今後の展望
- 航続距離は最大800km(BMW iX3)を実現、リアルワールド性能向上。
- 車両効率は現行Gen5と比べて約20%改善。
- モーター構成により、1〜4モーター仕様まで展開可能で、BMW Mモデルへの応用も視野に。
- 環境対応と高性能を両立した「テクノロジー中立なeモビリティ戦略」の本格運用が始動。
まとめ
BMWのGen6 eDriveは、電動車両技術の“次のスタンダード”を築く包括的なソリューションです。800V化、制御の自社開発、モジュラー生産、熱マネジメント、双方向充電、独自のモーター構造など、一切の妥協を排した設計思想は、テスラやメルセデスに対抗しうる次世代アーキテクチャと言えるでしょう。今後、iX3から始まるNeue Klasseシリーズがこれらの技術を市場でどう活かすかが、注目の焦点となります。