40%の効率アップと軽量化でBMW EVが進化。オーストリア工場で「第6世代」モーター量産開始、次世代モデルに順次搭載予定。
BMWが開発してきた第6世代の電気モーター(Gen6 eDrive)が、ついにオーストリアのシュタイア工場で量産体制に入りました。この新しいモーターは、これまでの試作段階を終え、今年後半に発売予定の新型BMW iX3「50 xDrive」に初めて搭載されます。注目は、その航続距離が最大800km(WLTP基準)に達するという点。さらに、後輪駆動の1モーター仕様では最大900kmに近づく可能性もあると見られています。
これまで搭載されていた第5世代モーターに比べて、エネルギー損失が40%減、重量が10%軽くなり、製造コストも20%削減。こうした改良によって、車全体の効率も約20%向上しました。BMWは2026年には新型i3セダンにもこのモーターを搭載し、さらに上位のSUVモデル(iX5、iX6、iX7)にも順次採用していく予定です。
生産を担うシュタイア工場では、これまで40年以上にわたってガソリンやディーゼルエンジンを作ってきましたが、今回の切り替えで約1000人がEVモーターの組立に従事。将来的には、全従業員の半数がEV関連に関わる可能性があるとのこと。BMWはこの工場に10億ユーロ(約1600億円)以上を投資しており、「単なる生産開始ではなく、ヨーロッパと未来への強いコミットメント」だと経営陣は語っています。
このモーターは、今後BMWの次世代EVシリーズ「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」全体に展開されていきます。車種ごとに1基から最大4基のモーターを搭載可能で、BMW Mがもし4モーター仕様のハイパフォーマンスEVを開発すれば、その総出力は1341馬力(1メガワット)にもなる見込みです。
重要キーワード3つの解説
- 第6世代モーター(Gen6 eDrive)
BMWが独自開発した最新の電動パワートレイン。従来より大幅に効率を高めつつ、小型・軽量化と低コスト化を実現。800ボルトの高電圧システムとシリコンカーバイド(SiC)半導体を採用しており、急速充電性能や電力変換効率も飛躍的に進化しています。 - ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)
BMWの未来を担うEV専用の次世代モデル群。プラットフォーム、ソフトウェア、内装デザインすべてを一新し、2025年後半から本格展開予定。iX3や新型i3、iX5などが含まれ、すべてGen6モーターをベースに設計されています。 - 技術中立性と生産柔軟性
BMWは「テクノロジーに中立な立場」を取っており、ガソリン車・ディーゼル車・EVを同じ工場で柔軟に生産できる体制を整えています。これにより、需要の変化や市場ごとの戦略に即応でき、長期的な雇用の安定にもつながっています。
今後の展開とインパクトの可能性
このモーターの登場によって、BMWのEV戦略は本格的な転換点を迎えます。航続距離800kmという数字は、テスラや中国勢との競争でも大きなアドバンテージとなり得ます。また、1台の車に複数のモーターを搭載できる柔軟性から、SUVからスポーツモデル、さらにはMINIやロールスロイスなどグループ全体への展開も視野に入っています。
EVシフトが進む中で、シュタイア工場が果たす役割も重要です。ヨーロッパにおける技術・生産の中心として、雇用を維持しながらエネルギー転換に貢献できるモデルケースとなるでしょう。BMWがテスラの牙城に本気で挑み始めた、そんな印象を与える一歩です。